読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

にほんの人口

誕生日を迎えた。何も予定がなかったので、夕方までずっと眠っていた。夜になっても眠気はやってこなかったけれど、次の日は仕事だった。

小学生の頃、眠れない夜はいつも泣いていた。両親の寝室に忍び込んでも、二人は気持ちよさそうに眠っていて、にほんで起きているのって私だけなんじゃないか、と本気で思っていた。そうしたら悲しくなって、また泣いた。田舎の夜は静かでさみしい。

23歳になった私は、布団にはいって、夜勤で働いているひとのことを考える。そうすればきもちが落ち着くということを、知らない間におぼえた。まるまって泣いていた当時の私にも、こっそり教えてあげたい。

広告を非表示にする

他人の私生活

いつも職場でちゃきちゃきと働いているひとの、箪笥の中身を覗いてみたくなった。タグがついたままの洋服が置きっぱなしになっていたり、くたびれた靴下が奥の方でまるまっていたりしてほしい。部屋にいるときは、見たこともないくらいに表情筋が垂れ下がっていて、生気を失っていてほしい。そのひとの私生活がだらしなければだらしないほど嬉しい。

広告を非表示にする

祖父に電話をした。脳の手術を終えて、一ヶ月が経った祖父は、「ありがとう、心配かけたなあ。」と何度も繰り返す。来週の火曜日から、試験的な抗がん剤治療がはじまる。ぴったりと合う抗がん剤が見つかるまで、再び、三週間の入院生活。祖父は優しい声で「その間は、ばあちゃんが毎日来てくれるけえのう。」と教えてくれる。前回入院していた時も、祖母は毎日病室まで足を運んでいた。「あのじいちゃんが、帰り際に、エレベーターの前まで送ってくれるんよ。」と少し嬉しそうな祖母の顔を思い出した。

広告を非表示にする

春がくる

嫌になって、マスカラとアイライナーを捨てた。さくら色のアイシャドウで、まいにちごまかしている。花粉症で目がかゆい。眼鏡を見に行ったら、お取り寄せをしてもらうことになったので、四日後を楽しみにしている。

広告を非表示にする

波うつ白色

リボンの形をしたパスタを見ると、中学校の保健室を思い出す。白色のカーテンのレールとの接続部分をじっと見ながら泣く・先生がやってくるたびに寝たふりをする、というのを無限にくりかえしていた。

広告を非表示にする

朝、目が覚めた瞬間、からだがぐうっと布団に沈み込む。加湿器からでる蒸気のようなものが、頭の中にもふわっとひろがる。隣の保育園から子供たちの声が聞こえる。目を閉じても開いても、しっくりこない。沈むからだも、ぼんやりしたあたまの中も、布団を引っ張る指先も、すべてが他人。新しい朝なんて私にはないけれど、それでも朝は、嫌いにはなれない。

広告を非表示にする

性別について

初めてのアルバイトの研修で「あなたは女性だから」と何度も繰り返された。わたしはずっと、女でも男でもない 何か で生きているつもりだったので、あなたの性別は女だ!と言われると虫唾が走った。人間を二種類にわけて、並べて検品する・よく分からない社訓を何度も繰り返す。おもちゃになったような10日間の研修を終えたが、そこはすぐに辞めた。

広告を非表示にする

ごみ

紙を捨てるときに、くしゃくしゃに丸めて捨てる派・破って捨てる派・きっちりと折りたたむ または平面のまま捨てる派 があることを知る。私は、丸めて捨てる。片手でくしゃっと握ったあとに、両手を使ってまあるくかためる。見た目からして、もう必要のないもの、という雰囲気を醸しだす。

広告を非表示にする

からん ころん

高円寺で、知人とお酒を飲んでいたら「会わせたい人がいるので、呼びます」と言われた。数分後にやってきたのは、妖怪のような男だった。歩くたびに、からんころんと音をたてる下駄。お腹のところに小さめのギターと巾着袋のようなものがきゅっとくくられている。そのギターの弦に指を這わせながら喋る。「気持ちの悪い男で、すみませんねえ」「妖怪みたいですね」彼は笑いながらまだ咲ききっていない桜に向かってうたう。「変な人でしょう、面白いでしょう」「初めてみる生き物です」知人は笑いながら小さく謝る。歌がやんだかと思えば、彼は細い目でじいっとこっちを見ながら「声が、いいですねえ」と言い、私の声の歌をうたう。「やめてください」ととめるけれど、本当はそんなこと思っていない。桜の季節になると、彼を思い出す。にかあっと笑う彼の顔が、ぼんやりと脳裏に浮かぶ。

広告を非表示にする

とびあがるへび

むかしは、喋るときに何も考えていなかったのに、さいきんは、ほんとうに考えすぎるくらいに考えながら喋るようになった・なってしまった。てきとうなことを揺れながらしゃべっていた頃の方が、あたまの中が楽だった、周りからどう見られようが気にしなかった。わたしの見た目は、むかしからずっときもちがわるいから、あたまで考えていても考えていなくても、周りから見たら一緒なのに。何のためにあたまをつかっているのか、もう、わからなくなってしまった。

広告を非表示にする